-コラム-

旬刊旅行新聞で読者に好評をいただいている西川丈次の連載コラム「もてなし上手」のバックナンバーをお楽しみください。おもてなし講演の中でも、これらの体験事例が登場します。

連載開始を発表した「特別号」がこちらです。2010年12月に「もてなしの達人(冊子)」に掲載され、それから毎月1回、旅行新聞に連載されています。

~現場でのあなたの行動がお客様の感動を創る~

 

 「急いで下さい!」ある夜のことです。約束の時間に遅れそうになり、待ち合わせ場所のレストランまでタクシーに乗りました。行き先を告げるとドライバーは「分かりました」と走り始めて、すぐに大きな道から細い道に入りこみ、そこからくねくねスイスイと走り続けるのです。すごいドライバーだと感心していると突然、角を曲がって、太い道に出ました。すると目の前に、イルミネーションに輝く東京タワーが現れたのです。その素晴らしさに私は思わず、「東京タワーだ」と無邪気にも声をあげてしまいました。その声に合わせるように、車は急にスピードを緩め、輝く東京タワーをしっかりと見せてくれました。東京タワーのイルミネーションの美しさはもちろんですが、そのドライバーの心遣いに、私は感動したのです。

 別のある日、商品力調査の仕事で募集旅行の観光バスに乗っていた時のことです。バスがベイブリッジを走っている時に、バスガイドの声が急に大きくなりました。「みなさん、振り返って下さい。横浜の夜景があんなにきれいに見えています」。観光客の視線が車窓にくぎ付けになったとき、バス車内が急に暗闇になり、視線の先に横浜の夜景が浮かび上がったのです。車内に観光客の歓声が沸きあがりました。演出をしたのは、バスドライバーです。そのタイミングは絶妙で、バスに乗っていた観光客にとって、記憶に残る素晴らしい夜景を指一本の仕事で見せてくれたのです。

 観光業コンサルタントとして、良いサービスを20年以上も追いかけて来ました。持論は、「良いサービスを受ける力のない人に、良いサービスは提供できない」。つまり、これが良いサービスであるというものを感じ取ることのできない人は、サービスの提供者になってもマニュアル通りの行動しかできないと考えています。悪いサービスを受けた時の気分の悪さはいつまでも心に残るものです。しかし、良いサービスは意識していなければ、目の前をさっと通り過ぎてしまう。この行動が、言葉が素晴らしかったから、今私は気分が良いのだ。こうした行動や言葉をしっかりと感じ取ることのできる力を身に付けることが、お客様に評価される行動を生み出すのです。

 ではどの様にしてその力を身につけるのか?たくさんの事例を知ることです。素直な心で、その事例に学ぶ姿勢こそが大切なのです。人はいつからでも変われます。過去の経験にとらわれることなく、今目の前で起きている素晴らしい事例を全身で受け止めて下さい。それが、明日を変える力となるのです。一人で経験できる良い事例は、残念ながらそれほど多くはないかもしれません。しかし、10人いれば10倍の良いサービスの事例を知ることが出来ます。仲間とその事例を定期的に発表しあうこと。その発表の場が、意識して良いサービス事例を記憶にとどめるきっかけとなります。注意点は、否定しない事。そんなこと分かっている。そんなことは昔から私はやっていた。これらの言葉は、その事例の本質を曇らせてしまいます。表面を観るのではなく、なぜそのことで仲間が感動したのか。それをみんなで話し合ってみてください。一見同じように見える行動に、大きな違いがあることに気付くはずです。「やっている」と『出来ている』には、その成果に大きな差をもたらします。今、やっているレベルの行動を『出来ている』レベルの行動に変えて行きましょう。目の前にいるお客様に、「満足」を超える『感動』を提供していくことを目指しましょう。サービス業に携わる私たちに最も重要なことは、満足の提供ではなく、感動の創出なのです。これから私と一緒に『感動』体験を探しに行きましょう。