-コラム-
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第110回
案内と商品におもてなしの言葉を添えて
~言葉は商品価値も変える~
広島の講演で参加者に「広島のお土産を買って帰りたいのですが、何がいいでしょうか」と質問しました。すると、会場からは「もみじ饅頭」というたくさんの声が聞こえてきました。「もみじ饅頭」は広島の代表的な銘菓でしょうから、誰もが納得される回答だと思います。
ただ、実際に駅で買い求めようとすると、売り場には多くのメーカーのもみじ饅頭が種類豊富に並び、多くの人はどれが良いのかと、迷ってしまうと思います。一体何種類のもみじ饅頭があって、その味はどのように違うのでしょうか。それを、講演会の参加者に続けて質問をしてみると、当然のことですが、皆さん首をかしげていました。
よく聞くのは「お客様の好みはそれぞれ違いますからね」。確かにそうですが、お客様の質問に、こうした言葉で逃げてはならないと話しています。
「Aは老舗メーカーのもので、多くの方に人気です」。「Bは比較的新しいメーカーですが、バリエーションが豊かで、若い方々に人気です」。「Cは生地がおいしくて、私がよくお土産に買い求めるものです」。
このように、それぞれの特徴を伝えることで、お客様への応えに価値が生まれてくるのです。会場を出るときに、参加者の1人から「西川さん、今日の帰りに色々な種類のもみじ饅頭を買って、食べ比べをしてみます」と言われました。本当にうれしい言葉です。
ネットや雑誌で違いを調べるのではなく、実際に食べ比べをして、自身の言葉で目の前のお客様に伝えることが、最も説得力のあるものになるのです。
その言葉は「もの」であるお土産を、言葉を添えて渡すことで「こと」にもなるのです。「このもみじ饅頭は、〇〇なんだって」と、その土産の価値を高めるものとなるのです。
佐賀県の武雄で講演したときのことです。武雄図書館に行き、講演前のひとときを、軽食をかねたコーヒー休憩にしようと、図書館の中にあるスターバックスに行き、目に止まったサンドウィッチを頼みました。
「こちらでお食べになるのであれば、温めますが」と聞かれたので、お願いをしました。しばらくして、温められた商品を受け取るときのことです。スタッフが商品の載ったトレーを渡しながら、笑顔で「これおいしいですよ」と言葉を掛けてきました。
素晴らしい言葉に出逢えて、本当にわくわくしました。おかげでより以上にそのサンドウィッチをおいしくいただくことができたのです。
言葉のチカラとは、その商品の価値をも変えるのです。お客様の質問に応えられる「言葉」を、接客の武器を持てるようにしましょう。
第109回
おもてなしを実行する前後におもてなし
~お客様の旅に興味を持つ~
今年の仕事始めは、1月6日の大分県日田市の旅館「うめひびき」での社員研修からでした。依頼を受けてすぐに担当者から、当日の列車時間について「講演時間から逆算して、博多発の〇〇時のゆふいんの森号に乗ってお越しください」と連絡がありました。
さらに、「この列車は非常に混雑しますので、12月7日の発売日に購入された方が良いですよ」とうれしいアドバイスもいただきました。
今回は当日購入を予定しておりましたが、このアドバイスで12月7日に切符を購入でき、混雑期にも関わらず無事に往復の切符を手にすることができました。担当者からは8日に「切符は取れましたか」と、心配の連絡をいただきました。
かつて、あるクライアント企業から、こんな電話を受けたことがあります。その日は、支援日でその企業に行った帰りのことです。あいにく天候が悪く、乗っていた列車も遅れていました。何とか自宅まで帰ることができたのですが、その直後に「無事に帰れましたか」という連絡がありました。
また、別の企業ではこんなことがありました。いつもは駅まで送ってもらうのですが、この日は次の予定地に向かうため、企業の担当者が空港まで送ってくれることになりました。しかし、空港まで向かう道中、強い風が吹いて「飛行機は飛ぶかなぁ、大丈夫だろうか」と内心、ひやひやしていました。
空港に到着すると、企業担当者が「少しここで待ちますね。もし欠航でしたら、すぐに駅に送らせてもらいます」と車を停めて待っていてくれました。
私はすぐに車を降りて、飛行機が運航することを確認すると、担当者に送迎の感謝を述べ、「ではまた、来月よろしくお願いします」と言葉を交わして別れました。遠路遅い時間にも関わらず、心配をしてお待ちいただけるというのです。
「おもてなしセミナー」や講演時には、こうした私自身が受けた素敵なおもてなし事例を、たくさんお話しています。すると旅館関係者から「私も宿泊されたお客様が、無事にお帰りになられたか気になります。天候の悪い日などはご迷惑かもしれませんが、(無事お帰りになられたか)ご連絡を入れるようにしています」と話しをされていました。
ご縁をいただいたお客様へのおもてなしは、出逢ってから別れるまでのサービスを提供する、短い時間の中だけで実行されるものではないのです。お越しいただく交通機関や宿を出発された後まで、大切なお客様の旅に興味を持つこと。その時間を一生懸命に過ごすからこそ、お客様への想いは高まり、おもてなし力が養われ、創客というビジネスの目的が達成できるのです。
第108回
お客様に覚えてもらいたいからまずは自分から
~選んでもらったお礼の想い~
冷たい雨の降る日、東京駅のタクシー乗り場は長蛇の列でした。待ち合わせの時間を気にしながら、最後尾に並びましたが、一向に列は動きません。そこで、携帯電話のアプリからタクシー配車を依頼しましたが到着したタクシーを見つられませんでした。
東京ステーションホテルの入り口前と配車場所を記入して、再度配車をお願いしました。東京駅に到着してから40分後、ようやく目的のホテルに到着しました。ホテルに着くとスタッフが出迎え、タクシーからフロントまで案内しながら「雨の中ありがとうございます」「タクシーはつかまりましたか」と案じてくれました。
「分かってくれる人がいる」。その言葉がどれほどうれしかったか。ホテルに限らずレストランや旅行会社の店舗でも、お迎えの言葉をかけられる機会は多くあります。しかし、その機会を十分に活かせていないところが多いように思います。
研修などで身に付けた接客力を披露するのが、サービス業の仕事ではありません。「ここに来てよかった」と、思ってもらえるような仕事が大切なのです。空調の効いた室内で仕事をしていると、お客様の心理を理解するのが難しくなります。
来店されるお客様は、たまたまの来店かもしれません。しかし、間違いなく同業他社ではなく、自社を選んでいただきたいのですから、最幸のサービスを実行するのは当たり前です。もし足りないものがあるならば、選んでもらったお客様へのお礼の想いです。
タクシーの降車時に出迎えたホテルスタッフの言葉に、その想いが感じられます。雨の日はタクシーを捕まえることが難いということを分かっているから、「そんな中を来ていただいた」ということへの感謝の想いです。
チェックインを済ますと、スタッフが声をかけ「西川様、明日の朝にも雨は残ると思いますが、タクシーは利用されますか」と、翌日の心配までしてくれました。
さらに翌朝にも、チェックアウトをする私に気づいて前日のスタッフが駆け寄り「西川様、おはようございます。昨夜はゆっくりとお休みいただけましたか」「今の時間なら、タクシーがたくさん待機していますので、ご安心ください」と気遣ってくれました。
チェックアウト後に私の名前を呼んだのは、前日のフロントでの会話を聞いていたのだと思います。翌朝まで覚えていたことにて感動しました。
聞いてみると「お客様に私を覚えていただきたい。そのためにはまず私からお名前を覚えるようにしています。翌朝、お会いできないことも多いですが、お顔を見つけると思わず駆け寄ってしまいます」こんなスタッフに迎えられたら、ファンになってしまいます。